当院が「腸内フローラ移植」を取り入れている理由
持病に対する治療を探していて知った「FMT」
当院が腸内フローラ移植(糞便微生物叢移植、便移植、以下FMT)という治療を取り入れて、ルークス芦屋クリニック時代から数えてこの秋でかれこれ9年目となります。
2007年秋、私は持病の潰瘍性大腸炎の急性増悪にて入院して内科的な治療を受けていました。それまでにも何度か再燃を起こし入院したことがありましたが、その時の再燃ではさまざまな内科的治療が奏功せず、いよいよ外科的に大腸全摘を行わざるを得ないこととなりました。
大腸全摘後、長年の慢性的な下血や腹痛から解放され、これで安心して日常生活が送れると思ったのも束の間、今度は残った小腸(回腸嚢)に炎症を起こす「回腸嚢炎」を発症しました。回腸嚢炎に対する標準治療は抗生物質です。抗生物質を内服すると一旦は治るのですが、すぐ再燃し下痢下血を繰り返すこととなり、そのうち抗生物質も効かなくなってきました。
新しい方法のFMTとの出会い
そんな矢先、海外で注目され始めていたFMTが国内の複数の大学病院での臨床研究が始まっていることを耳にします。2015年末のことです。
早速私は某大学病院の研究班にアポを取り、一患者として受診をし、その大学病院でFMTを受けたのですが、残念ながら全く効果を認めませんでした。
しかしその時直感的に思ったことは、「これからFMTに関する研究が進み、ドナーの選別や菌液の投与法を工夫すればもっと効果的な治療になるはず」ということでした。その後もFMTに関する論文や関連情報にはアンテナを立てて情報収集し、当時勤務していた実家の医院で便移植ができないか研究を進めていたところ、知り合いの医師のSNSを見て、大阪市内ですでに民間施設でFMTを数多く行い効果を挙げているということを知ることになったのです。
早速私はその施設「まことクリニック」を見学させてもらい、そこでは従来の方法とは異なる独自の方法でFMTを行っており、すでに多くの方がその方法でFMTを受けて治療効果が確認されているということを知り衝撃を受けました。
その翌月には私はその新しい方法でのFMTを受けることになりましたが、その前年に受けたFMTの時と違い、FMT翌日から下血が止まり腹部の不快感も改善していることを自覚しました。n=1ではあるものの、自身が両方のFMTを受けてその違いを感じたことは私にとっては大きなエビデンスとなりました。
研究会の設立
その翌月に当たる2017年11月、この新しいFMTの効果と安全性を検証し、本当に効果があるのであれば世の人々に知っていただくために、志を同じくする医師たちと「一般財団法人腸内フローラ移植臨床研究会」を設立することとなります。
このような形で民間の小さな医療機関でありながら、しかもまだエビデンスレベルの低い治療とされていた腸内フローラ移植を始めた8年前、まだ腸内フローラ移植どころか「腸内フローラ」という言葉すらまだ今ほど浸透しておらず、この治療に関する理解を得るのは大変難しい時代でした。
その後も地道に、より効果的なFMTを模索しながら試行錯誤していると、全国各地からその噂を聞きつけた方々が新しいFMTを求めて来院してくださるようになりました。そしてそのまだエビデンスも決して高いとは言えない治療に望みをかけてFMTを受けてくださる方が徐々に増えていったおかげで、そのエビデンスも徐々に蓄積していくこととなりました。
自閉スペクトラム症に対する臨床研究
2023年、特定臨床研究「自閉スペクトラム症に対する新規糞便微生物移植法の有効性と安全性に関する臨床研究」を行い、私たちが想像していた以上の高い効果を得ることができました(近日中に論文発表予定)。
8年前に比べると、菌液の濃度や、菌液を調整するときに使う水素NanoGAS®のスペック、投与の仕方などが少しずつアップデートされ、より安全でより効果の高いFMTを目指して日々改良を重ねられています。
臨床研究終了後も自閉スペクトラム症やそれ以外の多くの方が私たち独自のFMT(水素NanoGAS ®-FMT)を受けてくださっていますが、それらの症例報告を研究会のHPでも閲覧することができます。
今後の展望
自閉スペクトラム症に対して安全性と効果が認められた新しいFMTですが、今後私のように潰瘍性大腸炎が増悪して大腸全摘など受けなくてもいいようにFMTでお手伝いができることを切に願っています。また近年急増している過敏性腸症候群(IBS)や小腸内細菌異常増殖症(SIBO)やアトピー性皮膚炎、がんなど、さまざまな疾患医応用していきたいと考えています。
微生物に生かされる私たちの命
この新しいFMTと出会い私の人生は大きく変わりました。そして何より気付かされたことは私たち人間を含む全ての生き物は腸内細菌や口腔内細菌などの共生微生物、そして土壌菌など多様な微生物に支えられることで初めて健全な生命活動が可能であること。本当はFMTなどしなくても腸内環境の微生物の多様性が維持できるような社会を取り戻したいと願うようになりました。
もしこの新しいFMTにご興味のある方はお気軽にご相談ください。

