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肚を感じる

2020年12月25日

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古来日本人は「肚(はら、腹)」を大切にする民族だったと言われています。
日本語の慣用句にも「肚」が含まれるものが多く、いかに日本人が肚と密接な生活をしていたが伺えます。
たとえば、
はらがたつ、はらを割る、はらが据わる、はらに据えかねる、はらを決める
などが挙げられます。

日本人は「私」というもの(魂)はもともと「肚」に宿ると考えていたことがうかがえます。ですから良い悪いは別として、武士の責任の取り方として「肚を切る」ということを行ったのです。
一方、西洋ではギロチンに代表されるように責任の取り方(取らせ方)として首を切るということをしました。これは、日本と違い「肚」より「頭(脳)」の重要性を意識した行為とも言えます。

江戸時代までの日本人は、今よりもっと肚を感じることが多かったと思われますが、その要因の一つに着物を着て帯を締めることで丹田を意識しやすくなり「肚」からの感覚が感じ取りやすかったのではと推測されます。きっと重心が今よりも低く、もっと大地に近い生活をしていたのではないでしょうか。
しかし明治以降、急激なスピードで西洋化するとともに日本人の生活は一変し、肚を感じて直感(身体)を重要視していた生活から思考(脳)を重要視する生活が中心となり、「私」の概念が脳を代表とする体の上の方に移るとともに、体の重心も上方に移っていきます。

この明治以降の社会の動きを決して否定するわけではありませんが、この「西洋に追いつけ追い越せ」の作業は、重心を高くして交感神経を非常に活性化させる必要の作業であったと思われ、本来交感神経と副交感神経でバランスをとる自律神経の観点からすると決してバランスのとれた作業であったとは言えません。

日本人は外国の文化をうまく取り入れて統合していくのが得意な民族であるはずでしたが、この明治期以降の動きはあまりにも急激で交感神経優位で肚を置き去りにした作業であったがゆえ、表面的な文化の取り入れ方になったとも言えます。

肚は副交感神経と親和性のある代表的な臓器で、副交感神経の中でもその代表格の迷走神経が支配し、脳とは一億本以上の神経繊維で繋がっています。
肚の感覚はこの迷走神経による情報を脳に伝達し、私たちの無意識に大きな影響を与えています。

英語で肚のことを"gut"と表現しますが、gut feeling(肚の感覚)は日本語では「直感」です。
近年の研究では、この肚との繋がりに腸内細菌が大きく関与していることがわかってきました。つまり私たちの無意識や直感には腸内細菌からの情報に大きく影響を受けていることが明らかになってきたのです。

しかし、平均的な現代人の腸内細菌叢は多様性が低く、バランスが崩れていることがわかっています。この状態をdysbiosisと呼びますが、私はdysbiposisも交感神経が優位すぎる生活と関連していると考えています。その結果として無意識や直感と遠くなり、うまく直感を働かせにくくなった現代人は否応無しに思考の産物である科学に頼らざるを得なくなっているのではないでしょうか。

昨今の現代人の抱える多くの健康問題にも、明治以降の西洋化により日本人の重心が上に移動して大地から離れていくとともに、「肚」からも遠くなったことが一因と考えられます。特に終戦後、日本人は焼け野原からの復興に交感神経をフル活用する必要がありました。

確かに物質的な豊かさを享受することができたのですが、この物質的な豊かさというのは交感神経が生み出した賜物です。しかし、自律神経のバランスという観点から考えると、迷走神経を代表とする副交感神経を軸とした「肚」との繋がりが本当の豊かさには必要不可欠とも言えます。
肚が据わり重心が低く安定していると、些細なことで動揺することはなく安定感を得られるようになります。たとえ辛く、苦しい状況があっても、肚が据わり自分とつながっている場合は他人が何を言おうと揺るぎない安定感と安心感が得られます。

いくら仕事で成果を出したり、セミナーで大量の知識を取り入れたとしても本質的な安定感や幸福感につながらず、なかなか満たされないとしとたら、それは「肚」との繋がりが弱いからかもしれません。最近の日本人はこういう人が増えていると思うのは私だけではないのではないでしょうか。
うちのクリニックは消化器疾患の方が多くいらっしゃいますが、なかなか良くならない人の中には、この「肚」の感覚から遠く、思考優位で情報に振り回されすぎている方が多いように思っています。思考で解決策を模索すればするほど、症状がどんどん複雑化していくようにも見えるケースも少なくありません。
巷では「腸活」がブームですが、これもいろいろな情報に振り回されて交感神経優位な状態での腸活は結果が出にくいと考えられます。本当の意味で「肚」と繋がった迷走神経を活性化させる腸活が重要です。

科学技術が進歩し、その恩恵を存分に享受している私たち現代人ですが、いくら科学が進歩したとしても人間の魂に近い「肚」との距離を適切に維持しておくことの重要性はこれからも変わらないと思います。
ですから思考で判断するばかりではなく、肚からの感覚を大切にし、心地よい感覚を大切にし、人との交流を深めたり、自然の恵みに感謝しつつ、大地に近い生活というものがあなたの直感を育み真の健康への近道となることでしょう。

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